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: 画像処理決定部(strategist) : ロボ部屋輪講「SYMBOLIC VISUAL LEARNING」資料 Chapter : MIRACLE-IV の概略

モデル獲得部(modeler)

我々は、コンパスを対象物体として選んだ。コンパスを手で操ることで、コン パスの形状を色々に変えることができる。我々は、MIRACLE-IVに様々に形状を 変えたコンパスをのシルエット画像を順に提示する。この順番をどう決定する かは学習にとって重要な問題だが、これについては後で説明する。MIRACLE-IV には、提示される全ての物体は単一の物体「コンパス」を変形させたものであ るということは教えるが、コンパスというものがどんな物体であるかは教えな い。つまり、MIRACLE-IV は初めにコンパスに関していかなる明示的なモデル も持たない。このような環境で、モデル獲得部は、画像処理決定部と相互に情 報を交換することで物体の内部構造を獲得する。得られたモデルは、物体を構 成する剛体・蝶番・滑り部の数および、それらの相互関係である。

ある新たな物体を学習するためには、その物体に関する様々な前提知識が必要 なるとよく言われる。機械学習においては、既に知っている知識と新たに得ら れる知識との境界は適切に設定されなければならない。形状が自由に変化する 物体の内部構造をコンピュータが学習することは非常に難しい。我々は、物体 の形状変化は蝶番と滑り部によってのみなされるとの仮定を置く。つまりモデ ル獲得部は、物体は蝶番・滑り部・剛体の3種類から成ることを知っていると する。この仮定を、HSS(Hinge, Slide, Solid)仮定と呼ぶ。この仮定の下でモ デル獲得部は、一連のシルエット画像から物体がいくつの蝶番・滑り部・剛体 からなりそれらはどのように連結されているかを学習する。

HSS 仮定に加えて、モデル獲得部は次の経験則を用いる。

提示される画像の順番は、漸次(インクリメンタル)学習においては注意深く 決定されなければならない。物体の形状は、一つ前に提示された画像とわずか に異なったものでなければならない。これを明確にするため、一つ前の形状と 比べて唯1つの蝶番もしくは滑り部が変化しているものを次の入力画像とする。 もし、入力画像が2つ以上の箇所において異なる場合、モデル獲得部の学習は うまくいかない。

モデル獲得部は、画像処理決定部から例えば(画像上の)線分の集合といった 形で形状の情報を得る。モデル獲得部は、ある線分の集合と別の画像上の線分 の集合とを同定しなければならない。物体の形状と傾きは、HSS 仮定の下で変 化するため、柔軟なマッチング手法が必要となる。

モデル獲得部は、連続する画像の線分集合間のマッチング拘束を緩和するため に、手書き漢字の認識に使われている手法を拡張した、拡張緩和法(Extended relaxation method)を用いる。同定処理によって、モデル獲得部は蝶番と滑り 部の位置を推定する。この推定は、角度と長さの2つの緩和パラメータに関す る情報によって決定される。モデル獲得部は、角度が異なることより蝶番の存 在を検出し、長さが異なることより滑り部の存在を検出する。一つ前の画像と の形状の違いは蝶番か滑り部どちらか一箇所であるという仮定の下で、この拡 張緩和法は物体の画像上での回転や併進に影響ずに同定を行うことができる。

我々はこの手法の有効性を定量的に解析したわけではないが、上記の条件の下 でほとんどの場合うまくいくことがわかっている。



SATO Yoshihiro 平成12年11月10日