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: システム構成 : ロボ部屋輪講「SYMBOLIC VISUAL LEARNING」資料 Chapter : 画像処理決定部(strategist)

学習過程の例

この章では、MIRACLE-IV のインクリメンタルなモデル獲得過程について、具 体例に基づいて説明する。

この例では、同じコンパスを4通りに変形させ、そのシルエット画像を順番に MIRACLE-IV に提示した。

1.画像処理決定部によって与えられる最初の線分集合(Figure 7.3(1))は、物 体の初期構造記述として保存される。単一の画像からは構造的な情報を得る ことはできない、そのためモデル獲得部はこの段階では特に何もしない。モ デル獲得部は、蝶番は曲がることができることを知っているが、曲がってい る箇所が蝶番であることは知らない。コンパスのモデルは、この段階では1 つの剛体として扱われている。

SOLID-A1 = a1 a2 a3 a4

2.2番目の線分集合(Figure 7.3(2a))が与えられると、モデル獲得部はそれを 最初の集合と関連付けようと試みる。その結果、もっとも曲がっている箇所 が蝶番であるという推定がなされる。モデル獲得部は、この推定に基づいて 構造記述を修正し、画像処理決定部に蝶番の存在とその大まかな位置を知ら せ、その画像上の特徴から他の蝶番を探すように要求する。画像処理決定部 は、画像上の蝶番のある場所に特徴が検出されるまで、蓄えている画像処理 列群を繰り返し適用する。この例では、丸い形状が蝶番であることの手がか りになる。Figure 7.3(2b)は、画像処理決定部から返される結果を示す。個々 の円形部分は、画像処理決定部が蝶番を示す手がかりとして発見した場所を 示す。この内いくつかはこれまで曲がっていないため蝶番とは確定されない が、蝶番の候補として記録される。モデル獲得部は、蝶番の画像上の特徴 (この場合は円)について何も知らない。

3.3番目の線分集合(Figure 7.3(3))と更新された構造記述(Figure 7.3(2))と の間の対応関係を計算する。この時、蝶番の候補点の角度は可変であるとす ることで、緩和法による画像間の効果的な比較が可能になる。この結果、別 の蝶番の存在が確定され、構造記述が更新される。この時点で、モデルは3 つの剛体と2つの蝶番で表される。

SOLID-C1 = (c1 c2)
SOLID-C2 = (c3 c4)
SOLID-C3 = (c5 c6)
HINGE-C1 = (SOLID-C1, SOLID-C2)
HINGE-C2 = (SOLID-C2, SOLID-C3)

4.4番目の線分集合(Figure 7.3(4))は、Figure 7.3(3)と同様の方法で処理さ れる。最終的に、物体が3つの蝶番と4つの剛体で構成されるという構造記 述が得られる。かく蝶番は2つの剛体を連結する。未確定の蝶番候補は、未確 定リストに保存される。

SOLID-D1 = (d1 d2)
SOLID-D2 = (d3 d4)
SOLID-D3 = (d5 d6)
SOLID-D4 = (d7 d8)
HINGE-D1 = (SOLID-D1, SOLID-D2)
HINGE-D2 = (SOLID-D2, SOLID-D3)
HINGE-D3 = (SOLID-D3, SOLID-D4)

最終的な構造記述が、物体''コンパス''のモデルとなる。言い換えると、 MIRACLE-IVは物体''コンパス''の概念を学習し、画像上の特徴(``円'')と機能 (``蝶番'')との対応を学習したと言える。提示する画像の順番 (1),(2),(3),(4)と(4),(3),(2),(1)は学習を可能とするが、(1),(4),(2),(3) などは不可である。Figure 7.4 は画像処理決定部が他の物体を処理した結果を 示す。コンパス上のいくつか円形の形状が、前回の学習によって得られた画像 処理列を用いることで検出されている。この例では、画像処理決定部は、画像 上の特徴を用いて直接蝶番の候補を推定している。

コンパスの例は、蝶番の概念を学習した例を示している。次に、比例コンパス (propotional compass)を用いて滑り部を学習する例を示す。まず一連のシル エット画像(Figure 7.5)を MIRACLE-IV に提示する。比例コンパスは蝶番を有 しているが、ここでは滑り部にのみ着目する。

MIRACLE-IV は、次の処理によって比例コンパスのモデルを学習する。まず簡 単に処理の概要を示す。

・画像処理決定部によって与えられる最初の線分の集合(Figure 7.6(1))が、 物体の初期の構造記述として記録される。前回のコンパスの例の最初と同様に、 モデル獲得部は単一の剛体としてモデルを生成する。

・2番目の線分の集合(Figure 7.6(2))が与えられると、モデル獲得部は最初 の線分集合と2番目の線分集合との対応付けを行う。その結果、滑り部の存在 が認識される。この認識は、もし2番目の画像上の物体の位置が異なっていて も正しく行われる。例えば、コンパスを上下さかさまにした画像を与えても成 功する。そしてこの認識に基づき、2つの剛体が1つの滑り部によって連結さ れているというように内部構造のモデルが更新される。この段階では、モデル 獲得部は一つの剛体がもう1つの剛体に対して滑ることができるということだ けを学習している。2つの剛体がお互いに滑り合うということは知らない。

次に、モデル獲得部は画像処理決定部に滑り部の存在とその大まかな位置を伝 え、それと似た形状を探索するように要求する。画像処理決定部は、(滑った 側の)剛体上の細長い穴を、剛体の画像上の特徴として発見する。画像処理決 定部はもう片方の別の剛体に存在する似たような穴を発見し、それをモデル獲 得部に伝える。

・3番目の線分の集合(Figure 7.6(3))と最新の内部構造記述との対応付けを 行う。ここでも、滑り部候補の存在によって、緩和法による効率的なマッチン グが可能になる。その結果、もう一方の剛体も滑ることが確定され、構造記述 が更新される。この時点で、比例コンパスは2つの互いに滑りあう剛体が1つ の滑り部によって結合されているものとしてモデル化される。

この学習過程を通して、モデル獲得部は比例コンパスのモデルを獲得し、画像 処理決定部は画像上の特徴(``細長い穴'')を抽出する戦略を学習した。全体と して比例コンパスの例では、MIRACLE-IV は機能である滑り部と画像上の特徴 である''細長い穴''を学習した。



SATO Yoshihiro 平成12年11月10日